GLOBAL FEATURE海外事業特集
03

中国事業現地の住文化に
価値を届ける

野村不動産は今、中国の国家戦略
「長江デルタ区域一体化発展計画」、
その経済発展を担う中枢都市・常州市における
不動産開発事業に参画している。
当社の海外事業でのプレゼンスを築くべく奮闘する
担当者の日々を追った。

in CHINA

Ryo Hyoguchi
俵口 怜
海外事業本部 海外事業一部
2011年入社
入社後、住宅事業本部に所属し、分譲住宅営業、分譲住宅用地取得を担当。海外留学派遣を経て、2018年より中国・フィリピンの分譲住宅事業参画・推進、オフィス運営事業推進を担当。
海外研修に実感した
海外マーケットのダイナミズムが転機に

2011年に入社後、国内の住宅事業での経験を積んできた俵口は現在、野村不動産の海外事業拡大の礎を築くべく、その中でも最大級のマーケットである中国ビジネスの先頭に立ちプロジェクトをリードしている。しかし元々はまったく海外志向ではなかったという。「私はそれまで海外旅行の経験すらなく、パスポートも持ってなかったくらいでしたから(笑)」

海外事業に興味を抱くきっかけとなったのは、2017年の海外研修派遣において、マレーシアのデベロッパーでインターンシップを経験したことだ。「異文化交流を図る中で、マレーシアのデベロッパーと不動産ビジネスに関する議論を日々重ね、多くの刺激や発見がありました。東南アジア全体的にいえることですが、経済の発展に対する期待感、高揚感など、非常に高い成長意欲があり、海外マーケットのダイナミズムを肌で感じ、大いに興味を掻き立てられたのです」

大型分譲住宅開発事業へコミットする

俵口が海外事業本部に着任した時、野村不動産は中国マーケットに対する次の事業参画を決断しきれずにいた。「しかし、私としては中国の投資規模の大きさや高い成長力に魅力を感じ、チャレンジしたい思いが強くありました。そこで赴任後すぐに、社内外へのヒアリング、時に同業他社にまでヒアリングを行い、事業対象国としての中国マーケットの可能性を見極めたうえで社内を説得。中国への事業参画への理解を得たのです」

そして2018年にスタートしたのが、野村不動産と国内大手企業、現地大手デベロッパーの3社共同によって分譲住宅を供給する大型開発事業、「常州I・常州IIプロジェクト」への参画である。「常州市はいわゆる長江デルタといわれる上海を中心とした経済エリアの中枢都市でポテンシャルが大変高い地区。現地パートナーも最大手クラスのデベロッパーです。力強いメンバーでプロジェクトに臨める手応えがありました」

俵口は野村不動産のメイン担当として工事・営業の進捗管理、財務モニタリングを担い、中国ビジネスに必要な交渉力、商習慣への理解を深めていく。「日本の常識とは違う、彼らのフレキシビリティ、スピード感に驚きました。例えば議論を重ねて事前に合意した計画でも、着工途中にマーケットの反応を見極め、ニーズに合わない部分はスピーディにガラッと計画を変更するんです。日本ではまずあり得ないことですが、中国では『当たり前』だと。この姿勢には感銘を受けましたね」

常にマーケットと向き合い、顧客ニーズに合わせていく。こうしたパートナーたちの姿勢は、ある意味で顧客起点を徹底的に突き詰める野村不動産のDNAとも合致する。「ですので、私も『こう変えては?』と積極的に提案していきました。こうした刺激的なやりとりを重ねながら、現地の商習慣に馴染んでいきました」

マレーシアのデベロッパーインターンシップにて
野村不動産のノウハウを活かして、
パートナーの期待に応える

この3社共同事業によって中国ビジネスの基本を学んだ俵口は、並行して2019年に「常州市天寧区プロジェクト」にも参画する。このプロジェクトの意義は、現地パートナーとの「1対1」の共同事業であること。中国ビジネスおよび開発案件により深く入り込むためであり、事業費も100億円近くに上る。

「この案件は1つの敷地に30棟が林立する大規模な分譲住宅開発です。『常州I・常州IIプロジェクト』の実績もあり、パートナーは私たちが培ってきた高品質な住宅開発力、コミュニティの創生といったソフトのノウハウ・アイデアに大いに期待してくれていました」

そこで開発の全体計画や街区設計において、ユニバーサルデザインの知見や実績に基づく公共性の高い提案を、俵口は積極的に行っていく。「まず、全体の敷地計画については、各棟の配置プランに始まり、そこにおける緑地計画や電気設備設置計画、人と車両の出入口の分離を図る安全に配慮した動線計画などを立案。さらに敷地内に人が集い留まる共有スペースを提案し、コミュニティ醸成に寄与するような街区や敷地計画を考えたのです」

こうした提案努力が実り、様々なアイデアが街区には採用されている。例えば街区内の安全を図るために道路にカラーリングを施し、視覚効果を用いてスピードダウンを促すプラン、街区内の商業施設に階段状のステージを設けて、広場と商業施設の一体化を図るプランの導入……などなど。俵口の提案はプロジェクトの随所に活かされている。時として意見の食い違いが起こることもある。だが、繰り返し地道に提案することに意味があると俵口はいう。「例えば施設設計では、廊下とエレベーターの動線や隣家のプライバシーに配慮した各戸の配置など、日本はきめ細かくプランニングしますが、中国にはあまりこだわりがありませんでした。提案が取り入れられなかったとしても議論を積み重ねたことで、より深く中国の嗜好性やパートナーの考え方を学ぶことができました。積極的な提案活動から得るものは大きいのです」

パートナーの期待に応えるべく俵口が流した多くの汗は、野村不動産の海外事業の貴重な知見となって結実している。

中国 常州市 天寧区プロジェクト
中国の住文化、そして野村不動産の海外事業の
発展に貢献する

こうした現地パートナーとの協業以外に、俵口が中国担当としての重要な責務だと考えている仕事がある。それは役員へ現場からの強い意志を伝えることで、より良い意思決定に寄与することだ。「中国の開発案件は事業費が大きいので、重要な決定や判断は取締役会までいきます。また、日中間や米中間の出来事はよくも悪くもニュースになるので、不動産マーケットや開発案件への影響について担当者としての意見を求められるのです」

そこでは「いかに“本質”を正しく伝えるか」が重要だと俵口はいう。例えば中国では計画変更は当たり前でも日本では違う、といったことが多々ある。またニュース報道も、現地の実際の出来事とはトーンが違う場合も多い。「背景や理由といった本質を掴み、現場にいるからこそわかる“真意”を、役員に伝わる言葉で説明することが重要です。重責ですが、自分が“第一人者”だとの自負もありますから、やりがいがあります」

最後に俵口は、野村不動産が中国マーケットに向き合う意義、提供できる価値を次のように語ってくれた。

「最も本質的なことは中国の住文化への貢献です。中国の住環境・住文化は年々その成熟度を高めています。高品位な住宅開発力による質の向上、人が集うテナントミックスの手法・コミュニティ醸成によるエリア価値の向上といった、街の成熟度アップに貢献する価値提供が今まで以上に求められていますが、私たちにはそれが提供できます。それが中国との永続的な事業発展につながると確信しています」

現在、俵口は野村不動産が参画した「北京発展ビル」の運営事業にもコミットし、そのノウハウも学び始めている。また現地パートナーから次の案件への参画を要請され、現在は参画を検討中の段階だ。「事業フェーズにより主担当部門が分かれている国内事業と異なり、海外事業では、建設か営業か、あるいは住宅開発かビル開発かといった区別がなく、すべてに携われます。幅広く不動産事業に携われるのは、得難い経験です。また、野村不動産の海外事業は今後さらに基盤を強化し、事業を発展させていく途上にあり、海外進出のスタイルが凝り固まっていません。その発展に貢献する最前線に立てることが、野村不動産で海外事業にコミットする醍醐味だと感じています」