野村不動産が「国家戦略特区」としてエントリーした芝浦一丁目地区。現在、オフィス、ホテル、商業施設、賃貸マンションなどで構成される2棟のタワービルの建設を含めた同地区の大規模複合開発に向けて、特区指定の申請準備を進めている。申請が通れば、2020年までに着工し、2030年頃の完工予定となる。いわば「街づくり」とも言える開発規模で、会社としてもこの規模は史上初の試みだ。未来を見つめながら、プロジェクトをけん引する4名のストーリーを紹介する。
2009年12月、野村不動産はM&Aを実施し、東芝不動産の筆頭株主となる(現・NREG東芝不動産)。同社が所有していた資産の中で最大の物件が、今回の主役である「浜松町ビルディング」だ。野村不動産はこのビルの資産価値を向上させるチャンスをうかがっていた。そこに「国家戦略特区制度」へのエントリーの話が持ち上がる。
当時NREG東芝不動産に出向していた金井は、大きなチャンスと判断。開発企画本部と協働で野村不動産内に立ち上がった「国家戦略ワーキンググループ(WG)」に参加した。大手デベロッパーが国家戦略特区制度に名乗りを上げる中、何としても浜松町ビルディングを中心とした大規模複合都市開発を行うべきだ、と第一優先案件となるようWGで調整を図った。
4ヶ月程のWGでの議論を経て、金井の提言は実を結ぶ。そして、2015年6月に国家戦略特区制度へのエントリーを無事完了し、本申請を行う権利を確保した。しかしここまでのビッグプロジェクトとなると、野村不動産にも知見が少ない。そこでオフィスビル・商業施設・ホテル・住宅の4セクター及び建築部から代表が集まり、総勢15名の「BLUE FRONT SHIBAURA (芝浦プロジェクト)」商品計画部会を立ち上げる。
入社20年超の金井から、当時5年目の森谷(商業施設)、森谷の同期で最後発の参加となった森野(オフィスビル)と、様々な人材が一堂に会したこのプロジェクト。「自分たちはどんな街づくりをすべきか」「アセットをどう最有効活用すべきか」など、キャリアの差を超えたフラットな議論が進む。
各セクターの代表者を通して様々なアイデアが集まり、再開発の方向性は見えてきた。しかし部会のファシリテートを行っていた四居は、しだいに違和感を覚えるようになったという。このままでは各セクターのアイデアの足し算以上のものが見えてこない。野村不動産史上最大の「街づくり」を通して、我々は、これからの社会に対して何を提供したいのか。これから大きく変化する時代に、デベロッパーとして「街」という社会インフラを、何故、何のために、創ろうとしているのか?この命題に応えることが必要だと感じたのだ。
そこで部会からさらに分科会を設けて、1年半という時間をかけてコンセプトワークを行う。
BLUE FRONT SHIBAURA (芝浦プロジェクト)はエリアを管轄する東京都や港区など行政との協議を続けながら、野村不動産社内でもより詳細の検討が同時進行中だ。いったんはたどり着いたコンセプトワークも、まだまだこれから拡張させ、深度化し、細部を詰めていくという。しかしプロジェクトを動かす面々は、2020年までの着工、そして2030年頃の完工に向けて、意識を前方に集中させている。